2019年3月6日、7日に開催された 『サステナブル・ブランド国際会議2019東京』。その2日目、最終セッションの「フィンランドのMaaS、社会問題解決のためのビジネス・アプローチ」では、フィンランド大使館の上席商務官である田中浩一氏がフィンランドのスマートモビリティ活用事情を共有した。
フィンランドにおける課題の一つは、ずばり渋滞や事故、気候変動などを引き起こす交通問題。それを解決しうるのが、同じくフィンランドで生まれたMaaSという“新しい移動の概念”なのだという。
本記事では、MaaSという言葉に馴染みのない人にもわかりやすく、セッションの一部始終をお伝えする。
<セッション登壇者>
- Panelist:フィンランド大使館 商務部 上席商務官 田中 浩一 氏
- Panelist:PwCコンサルティング合同会社 常務執行役員 パートナー 野口 功一 氏
新しい移動の概念 MaaSとは?
MaaSは、Mobility as a Service(サービスとしてのモビリティ)を省略したものだ。ICT(情報通信技術)を活用し、バスや電車、タクシーなど、自家用車以外のすべての交通手段による移動を、1つのデジタルプラットフォームでシームレスにつなぐことを指す。
具体的には、スマートフォンなどのデバイスでMaaSプラットフォームにアクセスすれば、すべての交通機関のルートや乗り換え情報の検索、チケットの予約や支払い・決済までをワンストップで可能にするということだ。
これまで私たちは各交通機関ごとに検索・予約・支払いをしていたが、その手間をなくすことで交通の利便性をより高め、都市に住む人々の生活を快適にする。田中氏は、MaaSはインフラの“最上位”に位置し、街づくりの視点が欠かせないと語っていた。
フィンランドの交通通信省による、MaaSの紹介動画(英語)はこちら。
社会問題解決のためのMaaS
先に述べたように、フィンランドの社会問題の一つは交通である。前提として、首都ヘルシンキでは自家用車の利用者が80%を超えることはないと考えられているという。「しかしこれは、渋滞や事故がもたらす社会損失を考えると見過ごせない問題です。」と田中氏は述べる。
より多くの道路を整備したり、新たなルートづくりをしたりすることもできたが、街のスペースが限られているため、フィンランドの交通通信省は、既存のインフラをどうしたら効率的に活用できるかを検討。結果、世界初のMaaSアプリである『Whim(ウィム)』を考案した。フィンランドでは、MaaSは「新たなビジネスチャンス」だととらえられている。
公共交通や私営などの運営主体に関係なく各交通機関をつなぐMaaSを適用するにあたって、留意すべきポイントは以下の4つだ。
- 都市化による地域格差の是正
- 既存インフラのデジタル化(データの有効活用)
- 気候変動への積極的な対策
- 高齢化社会における、高齢者にとっての移動サービス改善
MaaSに関与するステークホルダーは主にインフラ、サービスプロバイダー、パブリックセクターの三者。これらを統合するためには、デジタルスキルをもち、プラットフォームを運営できるプレイヤー(MaaSオペレーター)が必要であり、起業が盛んなフィンランドでは、スタートアップ企業がそれを担っているという。
行政もMaaS推進へのサポートを行っている。その一つが運送法の改正だ。この改正により、これまで独立していた関連法や規制を一本化し、同業他社へのデータアクセスを促すオープンデータを義務化、さらに異なる交通機関での複合輸送を可能にするためのデジタルプラットフォーム構築促進などをしている。
このように、フィンランドではMaaSをビジネス主体で運営し、行政がサポートしている状態だ。Whimはすでに商業化されており、これからのMaaSについては「ひとつの汎用ソリューションで提供されるのではなく、地域住民のニーズにこたえる形で展開されていくでしょう」と田中氏は語っている。
フィンランド政府が目指すのは、安全で持続可能、運営者と利用者にとって安価なサービスを提供すること。MaaSは都市部よりもむしろ、交通機関へのアクセスが都市ほど多くない地方部での活用が望まれそうだ。これまでの交通のあり方をくつがえす“新しい移動の概念”の、今後の展開が楽しみである。